キンギョを用いた脊椎動物の形態形成・進化の研究
私たちは、新型のロングリード次世代DNAシーケンサーとゲノム構造をシンプルにした雌性発生キンギョを用いて、これまで難しいとされてきたキンギョの全ゲノムの解読を行いました。この研究により、多様な形態と体色のバリエーションを持つキンギョの品種(変異体)の研究や、1400万年前に全ゲノム重複を経験したキンギョのゲノム進化の研究を行うことが可能となりました。
繊毛とは?
繊毛(せんもう、cilia)は細胞から生えた毛のような構造体で、微小管の軸を持っています。繊毛を輪切りにすると9本の微小管の束が規則正しく並ぶ特徴的な構造を持っており、中心部に2本の微小管があるタイプ(9+2)と無いタイプ(9+0)の繊毛があります。繊毛と似たような細胞表面の突起構造に絨毛(じゅうもう)があります。絨毛は小腸上皮細胞などに見られのですが、繊毛と違ってアクチン繊維の軸を持っています。
繊毛の役割は?
繊毛には動くタイプと動かないタイプがあります。はダイニンのモーターで動くことで「細胞の腕」としての役割や繊毛に存在する受容体を使って細胞のセンサーの働きをしています。
繊毛には、動くものと動かないものがあります。動く繊毛としては、精子の尾部や気道上皮の繊毛が有名ですが、これらの繊毛はダイニンのモーターで動くことで「細胞の足や腕」としての役割を持っています。体中のほとんどの細胞は動かない繊毛(一次繊毛)を持っており、繊毛の表面にはセンサー蛋白質や受容体蛋白質が局在しています。一次繊毛は、細胞外の情報をキャッチするアンテナとして重要です。例えば、鼻の嗅覚レセプターは嗅細胞の繊毛に存在し、匂いセンサーの役割を果たしています。また、腎臓の上皮細胞の繊毛には流量センサーとなる分子が局在しています。
繊毛はすべての細胞にあるのですか?
哺乳類では、ほとんどの体細胞が繊毛を持っています。多くの細胞は、1つの細胞に1つの動かない繊毛(1次繊毛、primary cilium)を持っています。逆に、分裂期にある細胞や、肝臓の肝細胞などでは、繊毛が存在しないことが知られています。
哺乳類だけでなく、多くの生物が繊毛を持っています。哺乳類(ヒト、マウス)だけでなく、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ)、昆虫(ショウジョウバエ)、線虫(C. elegans)、鞭毛虫(クラミドモナス)などのモデル生物でも繊毛の研究が行われています。酵母は繊毛を持っていません。
繊毛の異常は病気と関係があるのでか?
深い関係があります。繊毛の機能の異常は、ヒトでは様々な疾患を引き起こします。繊毛の異常は、私達が研究している視覚障害(網膜色素変性症)の他にも、腎障害(多嚢胞腎)、不妊、過食による肥満・糖尿病が引き起こされることが知られています。また、臓器非対称性(心臓が体の左側に位置する仕組み)の形成や、脳・神経系の正常な発生にも大切な役割をもつことが明らかとなっています。これらの疾患の原因を探り、診断法や治療法の確立のためにも、繊毛の研究は重要です。
参考文献(総説)
大森義裕、古川貴久、「網膜の視細胞における繊毛タンパク質の輸送機構と疾患」細胞工学2009, 28, 10月号, 1036-41